【ネタバレあり・感想】帰ってきたヒトラー

どんな映画

 第二次世界大戦で死んだはずのあの男、アドルフ・ヒトラーが現代によみがえる。
現代によみがえったヒトラーは、新聞やネット(wikipediaも)を使い現代の知識を得ていく。そんなヒトラーは、超絶リアルなヒトラーのモノマネ芸人である、と誤解され、彼の演説は現代ドイツを鋭く批判した風刺コメディーだと誤解され、テレビやyoutubeでコメディアンとして大ヒットする…
 2012年にドイツで発売され、ベストセラーとなった小説「帰ってきたヒトラー」の映画化作品。


映画『帰ってきたヒトラー』予告編

映画の内容(ネタバレあり)

 ヒトラーが目覚めると、そこは敵戦闘機も飛んでおらず、砲声も聞こえない公園だった。状況がつかめないヒトラーは、近くでサッカーをやっていた少年に声をかけるが、当然のことながら、「変なおっさん」扱い。すっかり変わってしまった街を歩くと、大勢の人から写真を撮られるばかり、どうにかたどり着いたキオスクでここが2014年だ、ということに気づく。キオスクで新聞を読み、ドイツが敗戦したことや現代の政治状況について、(一応の)知識を得る。
 その一方で、テレビ局では、人事異動があり、新局長にベリーニという女性が就任し、ゼンゼンブリンクは副局長に据え置かれる、そして、経費削減を理由にゼンゼンブリンクから解雇を言い渡されたフリー記者、ザヴァツキは、サッカーをする子供の撮影中、背景に写り込んでいた、ヒトラーを、ヒトラーそっくりさん、と勘違いし、自らの再起をかけてテレビ出演させようとする。
 ヒトラーとザヴァツキは、ドイツを移動しながら、各地で撮影を行う。バーや街角で民衆と対話するヒトラー
 そんな彼は、youtubeで100万再生を獲得し、ついにテレビデビューを果たす。秘書役として彼にインターネットの使い方などを教えた、ゴス系女子社員クレマイヤーとともに、現在までの歴史や知識を取り入れた(主にwikipediaから)ヒトラー
 コメディ番組にそっくり芸人として出演し、現代ドイツの諸問題やマスコミ、政治について、毒舌演説を行う彼は、たちまち「毒舌芸人」、「ヒトラーそっくりの政治風刺コメディアン」として、大ヒット、youtubeでも「過激ながら真実をズバリと言い切っている」と大人気になる。
 しかし、人気絶頂の彼がテレビ出演した際、過去(復活直後)の撮影中に犬を射殺した映像をリークされ、テレビ出演取り消し、を言い渡され、局長であった、ベリーニは解雇され、ゼンゼンブリンクが新局長に就任する。
 時間ができたヒトラーは、自らが現代によみがえってから今まで起きたことを小説「帰ってきたヒトラー」として発売、ベストセラーとなり、映画化も決定する。
 一方、人気芸人ヒトラーを失った後、テレビ局は収益が悪化、「そろそろほとぼりも冷めた」として、ゼンゼンブリンクは、「帰ってきたヒトラー」の映画制作への協力を示す。
 そして、クレマイヤーと恋仲になっていたザヴァツキがヒトラーとともにクレマイヤー家を訪れた時、認知症であるはずのクレマイヤーの祖母が、ヒトラーに対して、恐怖を抱き、拒絶する。クレマイヤーの祖母は、ユダヤ人であり、その家族皆、強制収容所で殺されてしまったのだ。クレマイヤーがユダヤ人であることを知った時のヒトラーの反応、そして、サッカー少年のビデオの背景にヒトラー出現の瞬間が写り込んでいたことから、ザヴァツキは、ヒトラーがモノマネ芸人やそっくりさんではなく、現代によみがえった本物、であることを確信し、ネオナチに襲われ、病院で療養中の彼を捕まえようとするが、精神に異常をきたした、として、病室に閉じ込められてしまう。
 一方、映画、「帰ってきたヒトラー」は撮影が終了、街を行くヒトラーに敬礼し、写真を撮る人々、現代によみがえったヒトラーはこう呟く「好機到来」と。

感想

 まず、ストーリーだけれども、細部が小説版とは異なっているため、小説を読んだ人にも楽しめる。というか、原作はヒトラーが書いたこと、になっているし、その映画化作品(今見ているこの映画)自体がヒトラー主演、という形式をとっている。
 街行くヒトラーがバーや街角でドイツ人と意見を交わすシーン、「過去のことがあるから、少しでも変な意見を言うと、すぐ外国人差別だと言われる」、「移民、特に原理主義者には帰ってもらいたい」など、全ドイツ人がそんな意見の持ち主だとは思わないけど、難民受け入れに反対する人々が少なからずいるようだ。そして、ヒトラーが街中を歩いたり、オープンカーに乗っていたりするシーン、これらの一部はゲリラ撮影されたもののようで、演技ではない、ドイツ人の反応、を見ることができる。「死ね」サインをする人もいるけれど、一緒に写真を撮影したり、ナチス式敬礼をする人がいたり、ヒトラー役の俳優もヒトラーに対する嫌悪感が薄れていることに驚いてたようだ。本編や予告編各所で、背景の人物にモザイクがかかっているシーンがあるが、それらは映画の撮影と知らされずに、ゲリラ撮影したシーンなのだろう。
 そして、彼の演説は毒舌ながら問題の本質をついている、としてネット上などで評価されるようになる。(トランプ大統領かな…)
 そして、映画内で「帰ってきたヒトラー」の撮影中シーンにヒトラーが発する言葉、「自分は民衆を扇動したのではない」、「政策をはっきりと明言し、そして、民衆に選ばれたのだ」、「他にどんな方法がある? 民主主義をやめるか?」
 ヒトラーは最悪の独裁者、と言われるが、そんな彼は、かつてドイツ国民から圧倒的な支持を受けて当選したのだ。
 終盤になるにつれて、スクリーンに現れる映像が、「現実に帰ってきたヒトラーが話している言葉」なのか、「『帰ってきたヒトラー』の劇中劇として撮影されている『帰ってきたヒトラー』のセリフ」なのか、わかりづらくなるシーンがある。
 そして、最終シーン、難民受け入れをめぐり、反対デモを繰り広げるドイツ人や、ギリシャ人、ドイツで起きた難民施設への放火映像など、映画の撮影ではなく、本当に現実に起きた出来事がエンドロールとともに流れていく。
 民衆に既存政治への不満が溜まり、難民やヘイトクライムが発生し、多少極端でもズバリと本質を言い切る強い政治家に人気が集まる現代。
 そう、タイムスリップしたヒトラーが活躍できるなら、まさにこの時代なのだ。
 民主主義によって、独裁者を選ぶことができる、民主主義的に、民主主義を拒絶することができる、という事実を、私たちはどう考えればいいのだろう。
 ドイツでは「戦う民主主義」を採用して、民主主義を否定する政党は極右、極左にかかわらず、解散させた過去があるそうだが…
 ついでに書くと、このヒトラー役の俳優さん、声はよく似ているし、特に帽子をかぶると本物と瓜二つ、と言っていいほどのクオリティ。過去のヒトラー映画のパロディーシーンやコメディータッチな描写があるなど、序盤はよく笑わせてくれるが、後半はまさに「笑うと危険」
 あと、クレマイヤー可愛い。
 おすすめですぞ。

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