読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

玩具修理者 著:小林泰三

 日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「玩具修理者」そして、「酔歩する男」の二作品を収録

あらすじ

玩具修理者

 男と女が喫茶店で話している。女はいつもサングラスをかけており、男がその理由を聞く。女は事故に遭い、そのためサングラスが必要になった、と言うのだが、男はそんな大きな事故の話は聞いたことがなく、真相をつかもうとする。そして、女は、昔、彼女の住んでいた家の近所にいた玩具修理者の話を始める。国籍も年齢もわからない謎の玩具修理者は、彼女から「ようぐそうとほうとふ」と呼ばれていた。玩具修理者の元に持ち込まれた玩具は、それがどんなに複雑であろうと元通りになって戻ってくるのだと言う。女やその友人たちは、様々なものを玩具修理者の元へと持ち込んでいた、ゲーム機や光線銃、そして猫まで、…

「酔歩する男」

 血沼壮士はある奇妙な経験をすることがある。いつも立ち寄る店にどうしても辿り着けない、しかし二、三日すると、その店にいつものように行くことができるようになる。そんな彼はある居酒屋で小竹田丈夫と名乗る見知らぬ男に話しかけられる、彼は自分と血沼はかつての親友であったのだ、と話す。小竹田と名乗った男は、明日になるとこの店に来られなくなる、などと話し、その話は一向に要領を得ない。帰ろうとする血沼だったが、自らの記憶に欠落があるのではないか、と疑い、小竹田の話を聞くことにする。小竹田は、かつて二人が親友であった大学時代の話を始める。二人がともに好意を寄せていた手児奈は駅で事故に遭い死んでしまう。手児奈を救う、ということに狂った血沼は、小竹田に医者になって手児奈のクローンを作るように要求する。小竹田は医学教授になるが、手児奈のクローンを作ったところでそれは手児奈ではなく、無意味だ、としてクローン制作を放棄していた。そんな彼の元に、大学院進学後、行方不明となっていた血沼が訪ねてくる。彼は脳の中で時間の認識を司る部分を破壊し、タイムスリップしよう、という計画を立てていたのだ。

感想

玩具修理者

 読み終えた時は、ミステリーっぽいかな? と感じた。男と女の関係はなんとなく読んでいてはわからないだろう、いわゆる叙述トリックというやつが使われているように感じた。
 玩具修理者が子供や猫、ゲーム機を分解するときの描写も魅力的だけれども、何種類かの玩具を分解し、それらの部品を組み合わせて元々の玩具を修理してしまう玩具修理者の不思議さと不気味さが特徴的だった。
 死んでしまった猫を「玩具」として玩具修理者の元に持ち込む友人や、自らの弟を「修理してもらうため」に玩具修理者の元に持ち込む女。「修理された」弟は一部にはゲーム機の部品が、一部には猫の部品が使われている。ちゃんと元どおりに動くからいいかもしれないが、元どおりに動けばいいのか、体の何割かがゲーム機や猫に置き換えられた人間は一体誰になるのか?
 短編で読みやすいながら、トリックもある一作品。

「酔歩する男」

 短編作品の玩具修理者に対して、本作は中編、こちらを一読した感想はホラーSFかな? というもの。
 「シュレーディンガーの猫」を理解できないと話についていくのは難しいかも。
脳の時間を認識する部分を破壊した結果、意識を失うと人生のどこかへとタイムスリップしてしまう体質となった小竹田の描写が恐ろしい。眠ると未来か、過去のどちらかに移動してしまう。例えば自殺などで死んだとしても、自殺→意識がなくなる→タイムスリップ、といういわば「死ぬことができず、自分の人生をループし続ける」状態になってしまう。
 脳の時間の認識法や、量子力学を取り入れたタイムスリップなど、理系なホラーSF、といった印象。