【感想】人類遺産

どんな映画?

 ロングランヒットとなった「いのちの食べ方」などのドキュメンタリー映画監督、ニコラウス・ゲイハルター氏の作品。人間の手によって作られ、利用され、そして放置されて朽ちてゆく廃墟に焦点を当てた作品。


『眠れぬ夜の仕事図鑑』などのニコラウス・ゲイハルター監督作!映画『人類遺産』予告編

映画の内容

 人類が作り上げ、利用し、そして放置されて朽ちてゆく廃墟に焦点を当てた作品。
登場人物がいないばかりでなく、ナレーション、音楽もなく、様々な廃墟が少しづつ朽ちてゆくようすを美しい映像で見せる。
 ブルガリア共産党本部、軍艦島発電所の冷却塔、病院、軍艦、そして、福島の原発事故により立ち入り禁止となった町まで、世界中の70か所以上の廃墟が登場する。

映画の感想

 登場人物なし、ナレーション、音楽なし、加えて言うならば、うつされている場所の説明もカメラの移動もない。映画館の中で約90分の間、廃墟の映像が流れ、一瞬暗転し、また別の廃墟の映像が流れ、を繰り返す。
 映画館の中で聞こえるのは、風の音、水の音、廃墟や放置された物が動く音、虫や動物の立てる音だけ。(後、寝てる観客の寝息(笑))
 私は廃墟写真などを見るのが好きなので、それなりに名前もわかる廃墟や、かつて何だったのかわかるところもあったけれど、初めて見る場所も多かった。
 登場する廃墟は、ヨーロッパの廃城や古代の遺跡というより、ブルガリア共産党本部、軍艦島発電所の冷却塔や放置された兵器、かつて鉱山で賑わい、そして砂漠へと帰っていく街など、人間がその産業や思想のために作り、そして放置したようなものが多かった。また、廃墟にはつきもの?の落書き後などもうつされていない。廃墟となった後、人がいっさい手を触れることなく自然に朽ちてゆく廃墟を写したかったのだろうか。
 映像に関しては、カメラアングル固定、ズームアップやピントのボケを利用した効果も一切ない。人の視野に近いレンズを使っているのだと思う。(たぶん)
 ただ、画面に全く動きがないわけではない。風が吹いて窓や物が動いて音を立て、水が滴りおちる音が響いて、水面で反射した光が壁や天井に模様を描く。雪や砂が廃墟を覆い隠したり、動物がいたり、鳥や虫が飛ぶ。カメラを固定して長時間撮影し、そして動きのあるシーンを採用したのかな? と思いながら見ていた。また、水面の反射や光と影を計算して、アングルを決めて撮影されたのだろう画面は見ていて飽きない。
 日本語の題名は「人類遺産」、ポスターのコピーには「そうして、人類の時代は終わりました」とある。昔「人類が消えた世界」という人類消滅後のシュミュレーションをした本を読んだけれど、その世界を見たらこの映画のように見えるのだろうか。
 どんな目的で作られたか、なぜ放棄されたのか、誰のものなのか、なんという名前なのか、そう言ったこととは関係なく、人が作ったものが自然の一部になっていく。
 これら廃墟は自然や動物にとって、もう名前などない「人類遺産」、もしくはこれらを残した存在が「Homo Sapiens」(原題)なのかな、などと思った。

公式サイト(日本語版)

jinruiisan.espace-sarou.com

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