軍事大国ロシア 新たなる世界戦略と行動原理 著:小泉悠

どんな本?

 冷戦終結後の世界情勢の中で、ロシアがクローズアップされる出来事が増えている。ロシアのプーチン大統領は、世界でもっとも影響力のある人物に選ばれた他、クリミア半島の併合、最近ではシリア空爆など、多極化する世界の中でロシアの存在感が増してきている。本書はそんなロシアを「軍事大国」という側面から見た一冊。

内容と感想

 最近の世界情勢の中で、クリミアやシリアなどで存在感を増す国「ロシア」。日本人にとって馴染みが薄い国だが、本書はそのロシアを「軍事大国」という側面から分析することによって、様々な紛争でのロシアの行動原理を明らかにしている。
 プーチン政権下で愛国教育に重点を置いた政策が行われ、ロシア国民の中でロシア軍の信頼度が向上していること、ロシア語には「安全」という言葉が存在せず、「危険のない状態」というニュアンスでの「安全」しか存在しないということ、軍事パレードや戦車、兵士のモニュメントなどがあり、軍がロシアの生活の身近にある一方でその軍事が秘密の壁に閉ざされていること、など、勉強になることが多い。
 ロシアに行ったことがあるならわかると思うが、地下鉄駅や橋、古い建物には未だに旧ソ連の紋章が付いているものも多いし、「大祖国戦争勝利記念」(ロシアで第二次世界大戦大祖国戦争という)の戦車や兵士の像があるほか、対独戦勝記念など軍事博物館が各所に存在する。
 ロシアの軍事、武器輸出を中国、アメリカ、北朝鮮、シリアなどのロシア外交、国際情勢との関連から分析しているのも、単なるロシア軍の兵器、組織解説に止まらない本書の魅力となっている。
 例えば、北朝鮮の核・ミサイル開発について。詳しい人でなければ、「ロシアと北朝鮮は仲いいんじゃない?」と思うかもしれないが、北朝鮮が軍事力をつけると米軍が韓国にミサイルディフェンスシステムを導入し、極東でのロシア軍の影響力が相対的に低下するため、ロシアは北朝鮮の核・ミサイル開発に反対の姿勢をとっているとか。
 ミリタリについて語るとき、(私も含め)「ミリオタ」と呼ばれる人たちは、兵器や軍の「強さ」について語りがちだけれど、実際は軍をどのように配備するか? どのような仮想敵を設定しどう対処するか? などはある意味、外交の延長線上にあるものだ。日本ならば、「外交の延長としての軍事」は、せいぜい海外派遣や周辺国への装備移転ぐらいだから、本書中の外交と絡めたロシア軍の戦略についての記述はとても興味深い。
 現代ロシア軍や軍事という側面から見たロシアを知る上で欠かせない一冊だろう。