宇宙旅行はバージン・アトランティックだ!「アド・アストラ」

どんな映画?

総評

 先に総評を書いてしまうと「見る人を選ぶ映画」かもしれません。
インターステラー」とか「ゼロ・グラビティ」的なものを期待して行った人には退屈だったかも。映画館でも終了後、微妙に退屈した系の感想がちらほら。

SF映画」というより、「内面を探索する系映画」だと思いました。

あらすじ

 人類が月で生活し、火星にも基地を作るようになった未来。アメリカ宇宙軍の宇宙飛行士として働くマクブライド少佐(ブラッド・ピット)がアンテナの修理作業に取り組んでいたところ、地球を大規模なサージ電流が襲う。地球では4万人が死傷する大惨事となってしまいました。

 修理作業から生還したマクブライド少佐は、地球外生命体探索計画「リマ計画」のために太陽系の果て海王星に旅立ち、そのまま行方不明になった父親クリフォードマクブライド(トミー・リー・ジョーンズ)が生存している可能性があること、海王星付近にあるリマ計画の宇宙船の反物質がサージ電流の発生源であり、生命滅亡の危機であることを告げられる。

 マクブライド少佐は行方不明になった父親を探すべく火星基地から通信を送る極秘ミッションに参加する…

感想(とネタバレ付きのあらすじ)

 全編にわたって、ある時は心の声、ある時は心理チェックへの回答としてマクブライド少佐の「内面の声」が繰り返されます。

 ヘルメット越しの同僚宇宙飛行士の言葉は聞こえなかったり、「俺に触るな」と(内面で)発言したり、火星への中継点として月に行ったときも商業施設や騒ぐ子供をみて「地球で逃れたかったものがここにある」と行っていたり。とにかく彼は「孤独」を求めているようでした。

 ちなみにそんな彼の評価は「優秀な宇宙飛行士」であると同時に「英雄クリフォードマクブライドの息子」というものです。

 これ、割と繰り返し出てきます。

で、その父親クリフォードもまた、地球を離れ、一生をリマ計画に捧げて地球外生命体探索に執念を燃やします。(演じているのが「宇宙人ジョーンズ」なので、「お前が地球外知的生命体やんけ」と突っ込んだのは私だけ)

 地球から離れ、ついにたった一人、父親と向かって知ったこと、それは「地球外知的生命体は存在しない」、人類は宇宙の孤独であったという事実。

 「不可能を可能にする、死んでも地球外生命を見つけるんだ!」とニーチェの超人思想的に孤独と絶望に立ち向かい、最後は宇宙船も捨てて海王星の果てへ飛び立った父親と、最終的に地球への帰還を果たそうとする息子。

ここからネタバレのあるあらすじです。

地球〜月面

 まずは地球から月面へ。微妙に「2001年宇宙の旅」風な着陸シーンを挟んで、月面裏側の基地から火星を目指します。

 ところで、このシーン。宇宙船や基地の広告にバージン・アトランティックが出てくるんですよ。スペースXではない!(←ここ重要)

 月面は商業施設があり、子供もいて、出張するサラリーマンがいたり、資源地帯を巡って紛争が起きたりしています。

 で、月面ローバーに乗って発射基地へと移動する途上、謎の宇宙海賊に攻撃されます。正直このシーンは謎。予告編でいかにも「アクションシーン!」みたいに出てきますが、特に後半との絡みはないです。

 その後、マクブライド少佐の監視役、行方不明の父親クリフォードの同僚の大佐(おじいちゃん宇宙飛行士)が不整脈で離脱。ここで、クリフォードからの応答がない場合、リマ計画の宇宙船、クリフォードの抹殺を行うべしという極秘情報を知らされます。

月面〜火星

 宇宙船に乗って火星へ。その途中で先ほどの極秘メッセージを見るわけですがこのシーンもなかなか印象的。科学者などの「お仕事」で宇宙に来て、水の球を作って笑っている他の宇宙飛行士との断絶感がしっかりと描かれています。

 地球(妻とか)から離れ、月面から離れ、宇宙軍のお仕事で来ている宇宙飛行士から離れてただ一人。

 終盤に向けて、海王星という太陽系の果て、父親へと近くほど、「周囲の諸々」が減ってゆきます。

火星

 火星表面でメッセージを送る少佐。ここ、なんで火星から生放送でメッセージを送るねん、と気にならないこともないですが…

 メッセージを送った後、返信の有無は知らされず、心理テストに問題が発生した少佐は地球への帰還を命じられます。

 安息室(部屋の内側に自然の風景が投影される部屋安息できるのか…?)でイライラしていたところ、火星基地の司令がやって来ます。

 火星生まれだという彼女はサージ電流が今後も起こることによって死んでしまうのか? ということ、彼女の両親もリマ計画に参加して行方不明になったこと、そして、マクブライト少佐に極秘の情報を見せてくれます。

真相

 クリフォードマクブライト少佐が海王星から送った救援メッセージ。それは、リマ計画の宇宙飛行士数名が心理ストレスに耐えられず地球への帰還を画策。この「リマ計画の反乱」に対して生命維持装置の一部を止め、反乱した宇宙飛行士と巻き込まれた宇宙飛行士が死亡したことを伝えるものでした。

 火星基地司令はリマ計画の宇宙船の破壊とクリフォード抹殺のために核兵器を積んだ宇宙船が発射されること、それに乗り込むための方法があることを少佐に知らせます。

海王星

 海王星行きの宇宙船にハッチをこじ開けて乗り込んだところ、司令部からは少佐を殺せとの命令が。少佐は「敵じゃないんだ」と説得を試みますがうまくいきません。

 SFマニア的にいうと「敵じゃないって言われても勝手に一人増えたら食料や空気が足りなくなるやんけ殺すしかないやん」と思ってしまうんですが…

 とにかく、事故もあって宇宙飛行士は全滅。少佐はただ一人、海王星を目指すことになります。

父親は「地球外生命の探索」に執着して他の乗組員を殺し、また少佐も「父親との対峙」に執着して他の乗組員を殺します。

 地球(妻とか)から離れ、月面から離れ、宇宙軍のお仕事で来ている宇宙飛行士から離れ、他の乗組員を殺して、ついに少佐は一対一で父親と対峙するのです。

 海王星、乗り移るためのカプセル型宇宙船を捨て、リマ計画の宇宙船へ。死亡した宇宙飛行士の死体をどけ、父親と見たモノクロのミュージカル映画が宇宙船の画面に表示されています。

文字通り、父親の内面へと進んでゆく少佐。そこで彼は「地球外知的生命体が観測できなかった」ことを知ります。

無限の彼方には何もない。人類は、孤独な存在だったのです。なんという絶望か!

それでも発見を求める父親クリフォード。最後に彼は息子と自分をつなぐロープを切り離して宇宙の彼方へと飛び去ってゆきました。

孤独を求めることをやめ、誰かと一緒に過ごすことを求め、マクブライト少佐はただ一人、地球へと帰還するのでした。