暗殺者が出て殺す! ジョンウィック3 パラベラム (ネタバレあり)

どんな映画?

総評

 ジョン・ウィックシリーズが好きなら、是非みるべし。前作「ジョン・ウィック2」、前々作「ジョン・ウィック」は見ている前提で話が進んでいるので、しっかり予習しましょう。前回までに比べてアクションの感じが大きく変わっており、笑えるシーンも増えています。

あらすじ

 一言で言えば、「世界中の暗殺者から狙われることになったジョン・ウィックが敵を返り討ちにしまくる」です。スッキリしていていいですね。

 前作、ジョン・ウィック2の直後。殺しをしてはいけない聖域「コンチネンタルホテル」内でイタリアマフィアのボスを殺害したことにより「excommunicado(破門)」処分となった伝説の殺し屋ジョン・ウィック


John Wick: Chapter 2 (2017) - Rule Breaker Scene (10/10) | Movieclips

 コンチネンタル・ニューヨークの支配人ウィンストンの好意により、執行まで1時間の猶予を与えられることになりました。

 さて、そんなジョンは犬をホテルに預けて、ニューヨーク公共図書館へ。本の中から金貨と十字架、殺し屋にとって絶対の「血の契約」のメダルを取り出します。

 ところで、この図書館受付の人、ドラマ「ブラックリスト」のミスター・キャプラン役ではないでしょうか。もうニューヨークの人口の半分が殺し屋と聞いても驚きませんよ。

 と、ここに大男が。(当然殺し屋)1400万ドルというジョン・ウィック殺しの賞金欲しさに、ジョンに襲いかかります。巨漢に苦戦しつつ、本でその男を殺すジョン。しかし肩を刺されて、怪我をしてしまいます。


ジョン・ウィックが本で殺し屋と戦う<本・フー>シーンか解禁/映画『ジョン・ウィック:パラベラム』 本編映像

もう、「本・フー」とか「馬・フー」とか宣伝用の〇〇フーガ増えすぎてわけわかりません。ドクター・フーとかもそのうち出てくるんじゃね?

 彼は、闇医者の元へ。しかし治療が半分ぐらい終わったところで、破門の時刻になってしまいました。コンチネンタル関連のサービスは全て受けられなくなり、残りは自力で治療する羽目に。

 街中を逃げるジョンは早速、アジア系の暗殺者に見つかり骨董品店へ逃げ込みます。当然、殺し屋の街、ニューヨークの骨董品店には武器がたくさん。予告編のナイフ投げシーンはここで出てきます。(ワザマエ!)

 一方のコンチネンタルホテルでは、マフィア組織のトップ「主席連合」から、裁定人を名乗る女性がウィンストンの元を訪れます。

 前作のラスト、イタリアンマフィアのボスが主席連合入りした直後に殺されたこと、ウィンストンがそれを止めようとせず、また、その犯人ジョン・ウィックを逃して1時間の猶予を与えたことが問題になったようです。

 かくして、世界中の殺し屋に狙われることになったジョンは逃げ延びられるのか…

感想(とネタバレ付きのあらすじ)

 前作に比べてナイフ系アクションが大幅に増えております。あと、怪しい日本語も盛りだくさん。

 まさか、前作のラスト直後、をやるとは思わなかったです。チャプター2を見た後は流石に前日譚やるんだろうと思ったんですけどね。

 そして、良くも悪くも、続編への繋ぎの一作という感じもします。(当然ジョン・ウィック4があるわけです。)

 そして、これまでに比べて笑える場面も増えています。

一つは序盤のナイフ投げシーン。お互いに格闘し、間合いを図った途端、「あ、そういえば周りに武器いっぱいあんじゃん」と気づいて慌ててナイフを取り出したり。

序盤(本当にこの映画は序盤・中盤・終盤と分けにくい映画だ)

 ジョンはニューヨーク市内の劇場へ。バレエダンサーがいますが刺青が入っていてもうカタギでないことは一目瞭然。裏では格闘技(ロシアの格闘技サンボかな?)を練習しており、ジョンもここにいたらしいです。

 そんなロシア系マフィア「ルスカ・ロマ」の女ボスにジョルダーニと呼ばれるジョン。おそらく、ジョンはここで育てられ、殺し屋としての訓練を受けたのでしょう。ジョンは「チケット」(先ほど図書館で手に入れた十字架)を見せ、モロッコへの船旅を申請します。

中盤(モロッコ編)

 モロッコを訪れると当然暗殺者が、しかし、モロッコ・コンチネンタルの支配人がジョンを殺さないように、という指示を出していたようです。

 モロッコ・コンチネンタルの支配人はソフィア(ハル・ベリー)。ジョンはソフィアと交わした血の契約をみせ、コンチネンタルの前支配人に合わせるように頼みます。

 当然、破門されたので、ジョンは即殺さなければならないわけですが、ソフィアの娘を逃がしてくれた借りがあるとことで助けてもらえます。

 ここ、娘と会うのを諦めてモロッコ・コンチネンタルの支配人として生きているソフィアの存在はのちの、「どんな人間として死ぬか」というテーマに関わっているんですね。

 話し合いに行くだけだし、というジョンに対して話し合いで終わるわけないやん。と武器や犬の準備をするソフィア。

 ジョンは前支配人に主席連合のトップ「首長」の居場所を尋ねます。まあ、得られた情報は砂漠をめっちゃ歩くと向こうから見つけてくれる、というふわっとしたものでしたが…

 対価として、ソフィアの犬を求める前支配人。
「犬はあげられない」→「では殺すか」(あっ…察し)

当然、銃撃戦になります。犬を使ったスピーディーなアクションが見どころ。まあ、なんやかんや首長と会ったジョンは、破門を取り消す代わりにウィンストンを殺し、主席連合に仕える暗殺者として残りの人生を生きることを了承します。


John Wick: Chapter 3 - Parabellum (2019) - Escaping Casablanca Scene (4/12) | Movieclips

ソフィア「だってイヌ撃ったし」
ジョン「気持ちはわかる」
私「でしょうね」

中盤(ニューヨーク編)

 一方のニューヨークでは、裁定人が寿司屋を訪れます。

 寿司屋「平家」って… さらに、きゃりーぱみゅぱみゅのニンジャリバンバンも流れていて怪しい日本感MAXです。

 寿司屋の大将ハゲ「ゼロ」はニンジャ軍団のボスでもあります。彼とその手下に仕事を言い渡す裁定人、その内容とは…

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寿司マスターでニンジャ

 殺し屋の殺害でした。ホームレスマフィアを次々を斬り殺し、裁定人はジョンを助けたホームレスマフィアのボス、ボワリー・キング(ローレンス・フィッシュバーン)の元を訪れます。前作でジョンにキンバー1911(拳銃)と弾を7発渡したことが問題とされたようです。7発渡したので、ということで7回全身を切られるボワリーキング。
 (正確にいうと、このあたりはモロッコ編と同時平行で語られています)

中盤(ニューヨーク編)

 ウィンストン殺害のためにニューヨークに戻ってきたジョン。早速、殺し屋ニンジャに襲われます。


John Wick: Chapter 3 - Parabellum (2019) - Motorcycle Fight Scene (7/12) | Movieclips

コンチネンタル前までやってきたジョンはゼロにとどめを刺されるか、というところでコンチネンタルの執事が殺しをやめさせます。

 ジョンの手が入口の階段に触れているため「コンチネンタル内で殺しをしてはいけない」というルールが適応されたようです。(ちょっと触ってるだけでもいいんだ)

 殺しをやめる二人。

そして、ここが「最大の笑いどころ」です。
ソファに座るジョンと、その隣に間を空けずに座るゼロ。(かわいい)「俺、あんたに会いたかったんだよ!」的なことを言い始めます。

 これまで寡黙な暗殺者キャラだったゼロが急に可愛くなります。笑えます。見て。

終盤(最後の戦闘)

 これまで長く付き合いのあるウィンストン暗殺はしないことにしたジョン。コンチネンタルホテルは「聖域解除」を言い渡され、殺し屋は全員外へ。
 ジョンとウィンストン、執事と、彼のわずかな部下は主席連合の最精鋭部隊との戦闘に望みます。

 ここから先は待ちに待った銃撃アクション、刃物アクションの連続です。中盤、微妙にアクションシーンがない部分があったために大量に武器を用意するシーンからすでに盛り上がれます。

 主席連合の最精鋭部隊の強さとは…

「防御力と火力でゴリ押し」という単純ながら強力なものでした。スーツのおっさんではなく、黒ずくめの特殊部隊仕様。

 9mm拳銃弾を何発受けても平然と反撃してきます。もっとも、ジョンのスーツが銃弾を完璧に防ぐ防弾素材ですから、精鋭部隊も同じようなのを使っているんでしょう。

 武器をより強力なものへ持ち替え、どうにか切り抜け、ゼロとの決着もつけたところでパーレイの申し込みが。

 パーレイってのは一時休戦と協議のこと。パイレーツオブカリビアンでも出てきたあれです。内容を一言でまとめると再び主席連合に忠誠を誓うなら許す、というもの。

 ウィンストンはそれを受け入れ、ジョンに発砲、ジョンは建物から転落してしまいます。(あからさまに目配せしてますが)

 無事、ホテルは聖域に復活。一方、ジョンはホームレスマフィアのボス、ボワリーキングの元へ運ばれます。7回も切りつけられて怒り心頭のキング。独自路線をあゆむ彼にとって、主席連合は明確な敵となったのでした。

感想

 今回のテーマは「どのように死ぬか」

主席連合のトップと会うことに成功したジョンは「主席連合の暗殺者としてウィンストンを殺し、破門を解除される」か「世界中の敵と戦い続けるか」を選ばされます。

 一度、引退を成し遂げたものの殺し屋の世界に「もうやめた」は通用しないのです。残りの人生を主席連合に仕えて殺し屋として死ぬか、妻を愛した男として死ぬかの2択。

 果たして、ジョンは、またウィンストンはどちらを選ぶのでしょう。

 ところで、アクション・映像面では車と酒が減り、ナイフが大幅に増えました。なので、ガンアクション面では前2作の方が楽しめます。

 ナイフ、日本刀? カランビットとナイフ系の武器は充実しています。

また、アクションが繰り広げられる舞台も1作目のレッド・サークルクラブ(プール)や2作目の美術館シーンを意識させるところがあったのも面白かったです。

 水中で急減速し1メートルも飛ばない銃弾の描写は新鮮。(実際、水の抵抗が大きくてほとんど飛ばないそうだが)

 ストーリー面でも少し複雑になったかな? という印象です。これまでのように、殺すべきラスボス(マフィアのトップ)が主席連合という、顔のない組織になっているからだと思います。

 まあ、続編の存在は決定的と思いますので、どうなるか気になりますね。

地下1.5kmの核シェルター 核戦争小説を読もう第6回 モルデカイ・ロシュワルト「レベル・セブン」

前回は「核戦争版ワールド・ウォーZ」ことウォーデイでした。

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どんな本?

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総評

好み度★★★★★
やりすぎ核シェルター度★★★★★

 地下5000フィート(1.5キロ)という場所にある500年生活できる巨大シェルターという時点ですでに面白い香りが漂っております。(奇書の香りかもしれませんが)

 やりすぎ核シェルターの描写や核戦争の描写と原因のバカバカしさ、そして、皮肉な結末まで短めながら楽しめる作品です。

本の詳細

 絶版のため入手困難です。私が買ったものは古本で900円ぐらいしたと思います(定価は300円)。
 キティーちゃんで知られるサンリオが出版していたSF文庫「サンリオSF文庫」のシリーズです。SF好きならおなじみ「青背・白背」のハヤカワ文庫や創元SF文庫などにはないラインナップが特徴でした。
 マイナーなSFや、奇書も多いとのこと。ハヤカワ、創元SFと比べると比較的巻数が少ないため全巻コンプリートを目指すマニアも多いとか。
 「レベル・セブン 第七地下壕」として彌生書房からも出版されていますがこちらも絶版です。

あらすじ

レベル・セブンとは、500人の人間が500年間生存できるだけの物資を備えた地下5000フィートにある秘密核シェルターである。
 核ミサイル発射部隊「PBX部隊」で核ミサイル発射ボタンを押す押しボタン士官のX-117はこのシェルター「レベル・セブン」での任務を命じられた。
 二度と戻れない地上や、食事・結婚など地下世界での生活を送る主人公に対し、ある日、ついに核兵器発射の命令が下される。
 核戦争の結果、地上は放射線物質によって汚染され、一つ、また一つ、地表に近い核シェルターから連絡が途絶えてゆく…

感想

 冷戦期に書かれた小説ということもあり、それとなく、ソ連アメリカの対立を思い起こさせるような超大国同士の対立が核戦争の原因となりますが、主人公の名前(X-117)をはじめとして固有名詞は出てこず、ソ連アメリカどちらの立場に立っても同じように読めるようになっています。

   そして、本書の特徴と言えばなんと言っても地下4400フィートにある核シェルターです。500年分の物資を備えており、当然、電力源は原子炉、植物を育てて酸素を浄化し、食料は栄養剤のようなものになっています。

 核ミサイル攻撃を行うレベル・セブンの他にはミサイル防衛を担当するレベル6から、庶民向けのレベル1まで7階層の核シェルターが存在しています。

 反体制的な人間向けに一般庶民より深いレベルの核シェルターを割り当てるあたりもなかなか皮肉的です。(新聞と軽減税率みたいだぁ)

 レベル・セブンの核シェルター描写自体にはツッコミどころが多い一方(最も、それを楽しむものなのですが)ミサイルの誤射や誤探知による偶発核戦争自体は文字通り、攻撃一歩手前まで進行したこともあり小説内だけの出来事ではありません。ロシアには司令部が壊滅した時に核兵器を発射する「死の手」と呼ばれる自動報復装置も存在するそうな。

 

 

 

 

核戦争版「ワールド・ウォーZ」 核戦争小説を読もう第5回 W・ストリーバー,J・W・クネトカ「ウォー・デイ」

前回はこちら

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どんな本?

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総評

好み度★★★★★
リアル度★★★★★

 作家2人が核戦争後のアメリカを旅行しながら、各地の人々へのインタビューや噂、戦後の政府資料や世論調査などのデータを集めて「核戦争後のアメリカ」の姿を描くドキュメンタリー風小説。

 核戦争の経過やその後の影響など、かなりリアルにシミュレーションされてて、最近の作品では「ワールド・ウォーZ」が好きな人ならかなりハマるかも。

本の詳細

W・ストリーバー,J・W・クネトカによる小説。新潮文庫から発売されています。微妙に入手困難かもしれません。ページ数は約570ページぐらい。

あらすじ

1988年10月28日。
アメリカがソ連核兵器で奇襲され核戦争が始まりそして終わった日。
一日だけの核戦争が起こったその日は「ウォー・デイ(戦争の日)」と呼ばれるようになる。

 それから5年後、ニューヨークで核戦争に巻き込まれたウイトリー・ストリーバーとその友人ジム・クネトカは、戦争の日に何が起こり、その後どうなったか? を調べるべく、いまだに分断され、復興の途上にあるアメリカを周る取材旅行に出かける。

 核戦争時、核兵器発射を命じた「ドゥームズ・デイ・プレーン」ことE-4B空中作戦センターに乗っていた元国防次官

 核戦争後、通信不能などの理由で帰還せず、独自の行動を続ける国籍不明の潜水艦を破壊する「潜水艦狩り」を行うイギリス軍士官

 戦争に巻き込まれなかったために、国力を維持した日本とロスアラモスの原子力研究施設から設備を回収する日本人

 メキシコ国境沿いに広がり、独立を目指す国家アーストランを訪れ、半ば独立国化し避難民の受け入れを拒否するカリフォルニア州への潜入

起承転結! というより、小エピソードを集めた、ドキュメンタリー風小説。どこから読んでも楽しめるので、ちょっとした時間に少しづつ読めますね。

感想

 これまで紹介した作品は全面核戦争によって人類が滅亡する、または文明が崩壊するというシナリオでしたが、今回は一日で終わった限定核戦争後の世界が舞台になっています。なので、アメリカ政府自体は崩壊状態なものの、各州の政府は生き残っており、ヨーロッパや日本など核戦争に参加しなかった国と合わせて、各自復興を行なっています。

核戦争の流れ

 アメリカが弾道ミサイル対策の衛星を打ち上げ、結果、自国の核戦力が無力化されることを恐れたソ連が先制攻撃を開始。

 大規模な電磁パルス攻撃でコンピュータやインフラを破壊、潜水艦や人工衛星から投下された核兵器アメリカを攻撃、一方のアメリカもソ連に対して報復攻撃を実施します。

 結果、両国の政府と核戦力が破壊されたこと、ヨーロッパとソ連の密約により、ソ連のヨーロッパへの攻撃とヨーロッパからソ連への攻撃が起こらなかったことで戦争は、わずか一日で終結します。

感想

 総評にも書いた通り、ワールド・ウォーZの原作小説が好きな人ならハマるでしょう。当事者のインタビューなどから、その時に何があったかを描き出すドキュメンタリー好きにも受けそうです。

 ところで、ウォー・デイでは核攻撃を受けなかったカリフォルニア州が他からの避難民を制限し、半ば独立国のような独自路線を歩んでいます。

そして、核戦争小説を読もう第4回「ポストマン」でも主人公たちを脅かす存在であるサバイバリストと呼ばれる集団が、実はカリフォルニア州から攻撃を受けて主人公たちの方へ押されていることが示唆されています。

 銃規制が厳しく、リベラルな気風でシリコンバレーなどでも知られるカリフォルニア州ですが、アメリカ人的には「なんとなく独自路線を歩みそう」なイメージでもあるんでしょうか?

 

 

 

宇宙旅行はバージン・アトランティックだ!「アド・アストラ」

どんな映画?

総評

 先に総評を書いてしまうと「見る人を選ぶ映画」かもしれません。
インターステラー」とか「ゼロ・グラビティ」的なものを期待して行った人には退屈だったかも。映画館でも終了後、微妙に退屈した系の感想がちらほら。

SF映画」というより、「内面を探索する系映画」だと思いました。

あらすじ

 人類が月で生活し、火星にも基地を作るようになった未来。アメリカ宇宙軍の宇宙飛行士として働くマクブライド少佐(ブラッド・ピット)がアンテナの修理作業に取り組んでいたところ、地球を大規模なサージ電流が襲う。地球では4万人が死傷する大惨事となってしまいました。

 修理作業から生還したマクブライド少佐は、地球外生命体探索計画「リマ計画」のために太陽系の果て海王星に旅立ち、そのまま行方不明になった父親クリフォードマクブライド(トミー・リー・ジョーンズ)が生存している可能性があること、海王星付近にあるリマ計画の宇宙船の反物質がサージ電流の発生源であり、生命滅亡の危機であることを告げられる。

 マクブライド少佐は行方不明になった父親を探すべく火星基地から通信を送る極秘ミッションに参加する…

感想(とネタバレ付きのあらすじ)

 全編にわたって、ある時は心の声、ある時は心理チェックへの回答としてマクブライド少佐の「内面の声」が繰り返されます。

 ヘルメット越しの同僚宇宙飛行士の言葉は聞こえなかったり、「俺に触るな」と(内面で)発言したり、火星への中継点として月に行ったときも商業施設や騒ぐ子供をみて「地球で逃れたかったものがここにある」と行っていたり。とにかく彼は「孤独」を求めているようでした。

 ちなみにそんな彼の評価は「優秀な宇宙飛行士」であると同時に「英雄クリフォードマクブライドの息子」というものです。

 これ、割と繰り返し出てきます。

で、その父親クリフォードもまた、地球を離れ、一生をリマ計画に捧げて地球外生命体探索に執念を燃やします。(演じているのが「宇宙人ジョーンズ」なので、「お前が地球外知的生命体やんけ」と突っ込んだのは私だけ)

 地球から離れ、ついにたった一人、父親と向かって知ったこと、それは「地球外知的生命体は存在しない」、人類は宇宙の孤独であったという事実。

 「不可能を可能にする、死んでも地球外生命を見つけるんだ!」とニーチェの超人思想的に孤独と絶望に立ち向かい、最後は宇宙船も捨てて海王星の果てへ飛び立った父親と、最終的に地球への帰還を果たそうとする息子。

ここからネタバレのあるあらすじです。

地球〜月面

 まずは地球から月面へ。微妙に「2001年宇宙の旅」風な着陸シーンを挟んで、月面裏側の基地から火星を目指します。

 ところで、このシーン。宇宙船や基地の広告にバージン・アトランティックが出てくるんですよ。スペースXではない!(←ここ重要)

 月面は商業施設があり、子供もいて、出張するサラリーマンがいたり、資源地帯を巡って紛争が起きたりしています。

 で、月面ローバーに乗って発射基地へと移動する途上、謎の宇宙海賊に攻撃されます。正直このシーンは謎。予告編でいかにも「アクションシーン!」みたいに出てきますが、特に後半との絡みはないです。

 その後、マクブライド少佐の監視役、行方不明の父親クリフォードの同僚の大佐(おじいちゃん宇宙飛行士)が不整脈で離脱。ここで、クリフォードからの応答がない場合、リマ計画の宇宙船、クリフォードの抹殺を行うべしという極秘情報を知らされます。

月面〜火星

 宇宙船に乗って火星へ。その途中で先ほどの極秘メッセージを見るわけですがこのシーンもなかなか印象的。科学者などの「お仕事」で宇宙に来て、水の球を作って笑っている他の宇宙飛行士との断絶感がしっかりと描かれています。

 地球(妻とか)から離れ、月面から離れ、宇宙軍のお仕事で来ている宇宙飛行士から離れてただ一人。

 終盤に向けて、海王星という太陽系の果て、父親へと近くほど、「周囲の諸々」が減ってゆきます。

火星

 火星表面でメッセージを送る少佐。ここ、なんで火星から生放送でメッセージを送るねん、と気にならないこともないですが…

 メッセージを送った後、返信の有無は知らされず、心理テストに問題が発生した少佐は地球への帰還を命じられます。

 安息室(部屋の内側に自然の風景が投影される部屋安息できるのか…?)でイライラしていたところ、火星基地の司令がやって来ます。

 火星生まれだという彼女はサージ電流が今後も起こることによって死んでしまうのか? ということ、彼女の両親もリマ計画に参加して行方不明になったこと、そして、マクブライト少佐に極秘の情報を見せてくれます。

真相

 クリフォードマクブライト少佐が海王星から送った救援メッセージ。それは、リマ計画の宇宙飛行士数名が心理ストレスに耐えられず地球への帰還を画策。この「リマ計画の反乱」に対して生命維持装置の一部を止め、反乱した宇宙飛行士と巻き込まれた宇宙飛行士が死亡したことを伝えるものでした。

 火星基地司令はリマ計画の宇宙船の破壊とクリフォード抹殺のために核兵器を積んだ宇宙船が発射されること、それに乗り込むための方法があることを少佐に知らせます。

海王星

 海王星行きの宇宙船にハッチをこじ開けて乗り込んだところ、司令部からは少佐を殺せとの命令が。少佐は「敵じゃないんだ」と説得を試みますがうまくいきません。

 SFマニア的にいうと「敵じゃないって言われても勝手に一人増えたら食料や空気が足りなくなるやんけ殺すしかないやん」と思ってしまうんですが…

 とにかく、事故もあって宇宙飛行士は全滅。少佐はただ一人、海王星を目指すことになります。

父親は「地球外生命の探索」に執着して他の乗組員を殺し、また少佐も「父親との対峙」に執着して他の乗組員を殺します。

 地球(妻とか)から離れ、月面から離れ、宇宙軍のお仕事で来ている宇宙飛行士から離れ、他の乗組員を殺して、ついに少佐は一対一で父親と対峙するのです。

 海王星、乗り移るためのカプセル型宇宙船を捨て、リマ計画の宇宙船へ。死亡した宇宙飛行士の死体をどけ、父親と見たモノクロのミュージカル映画が宇宙船の画面に表示されています。

文字通り、父親の内面へと進んでゆく少佐。そこで彼は「地球外知的生命体が観測できなかった」ことを知ります。

無限の彼方には何もない。人類は、孤独な存在だったのです。なんという絶望か!

それでも発見を求める父親クリフォード。最後に彼は息子と自分をつなぐロープを切り離して宇宙の彼方へと飛び去ってゆきました。

孤独を求めることをやめ、誰かと一緒に過ごすことを求め、マクブライト少佐はただ一人、地球へと帰還するのでした。

 

 

映画にもなりました 核戦争小説を読もう第4回 デイヴィッド・ブリン「ポストマン」

さて、今回も核戦争小説をゆっくり紹介してゆくよ。(違う)あ、でも紹介動画とか作って見たいかも。

前回は筒井康隆「霊長類 南へ」でした。

the-level-seven.hatenablog.comそのうち、各小説を2~3行ぐらいで紹介したページも作りたいですね。

どんな本?

総評

好み度★★★☆☆
プレッパー度★★★★☆

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本の詳細

 ハードSF作家、デイヴィッド・ブリンの核戦争SF小説。映画化され、早川書房SFから改訂版が発売されています。

あらすじ

 核兵器や細菌兵器で壊滅したアメリカ合衆国。人々は小さな集落を作り、どうにか生き延びていた。集落間を移動しながら演劇を見せるなどして生きている男ゴードンは盗賊に襲われ全てを失ってしまう。

 そんな彼が放棄された郵便局のジープとそこで死んだ郵便局員の男を見つけた時、彼の運命は大きく変わることになる。

 郵便局員の制服を身につけた彼は、訪れた集落の人々の勘違いなどからいつしか、「復興合衆国の郵便局員」として集落を組織し、アメリカ再建を目指すことになる…

感想

世界観はこんな感じ

 今回の核戦争は、おなじみ(?)核兵器や細菌兵器を使った最終戦争なのですが、極端に「ヒャッハー」的な世界観ではありません。核戦争後、どうにか体制を維持していたアメリカと過激な思想家ネイサン・ホルンとその影響を受けた「ホルニスト」または「サバイバリスト」と呼ばれる人々による闘争的なことがおき、最終的に政府は崩壊した、という感じです。

 アメリカには実際に「プレッパー」や「ミリシア民兵)」と呼ばれる武装した市民がいるんですよね。ミリシアは白人至上主義や極右的な思想を掲げる(こともある)武装した市民集団、プレッパーは災害などの危機に備えて過剰なまでに食料や武器や武器を備蓄しています。「プレッパーズ」というドキュメンタリーもあるので見てみると面白いかも。まあ、災害に備えているだけなら無害なんですが、作中ではその手の無害なサバイバリストは、ホルニストなどとの闘争に敗れて死んでおります。

で、感想です。

 ポストマンの舞台はアメリカ西部(日本人的には東と西がややこしい)オレゴン州ウィラメット渓谷のあたりです。この辺りはアメリカの地理が頭に入っていないとわかりずらいかも。

 戦争の経過についても、物語が進むにつれて少しずつ明かされる方式のため人工知能や有人火星着陸、改造人間など、「あ、意外と技術進んでるのね」というのは後からわかります。

 で、主人公ゴードンは集落を移動しながら(戦前に学んだ)演劇なんかをやって食事や寝るところをもらっているわけです。マクベスやなんかを演じていた彼が、勘違いから遠いアメリカ東部で復興しつつある復興合衆国の郵便局員を演じるようになり、それが最終的に、ささやかながらも地域の統一へと繋がってゆきます。

 彼の演劇は戦前の回想や現実を忘れるために行われていますが、もしかしたら、彼を郵便局員と勘違いした人々も、本当は彼が本物でないことを知っていたかもしれません。

 そして、演劇を通して希望を与える役者であった彼が、その希望をつなぐ者になってゆく過程がなかなか面白い。

 後半は改造人間や(核戦争後にはめずらしい)フェミニストの女性と、彼女の「凶暴な男によって滅びた世界と、彼らを止めるために女が果たすべき義務」という思想、そして、ウィラメット渓谷偵察隊の女性による悲劇的な作戦、など盛り沢山な展開になっております。

フォルクスワーゲンのWVはWillamette ValleyのWV。ぜひ読んで見てください。

 

 

人が死にすぎるとコメディになる  核戦争小説を読もう第3回 筒井康隆「霊長類 南へ」

 さて、いつまで続くか「核戦争小説を読もう」。
第1回目は社会派推理小説作家の異色作、松本清張「神と野獣の日」

the-level-seven.hatenablog.com第2回目はパンジャンドラムの人こと、ネヴィルシュート「渚にて

the-level-seven.hatenablog.com第3回目は、小松左京星新一と並んで日本SF御三家の一人とされる筒井康隆
「霊長類 南へ」です。

総評
好み度★★★★★
ブラックユーモア度★★★★★

あらすじ

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 中国のとある軍事基地で発生した喧嘩により、核ミサイルの発射ボタンが押されてしまった。核ミサイルは韓国や日本の米軍基地、ソ連の軍港に命中、そこから起こった誤報や報復の連鎖によって、米・中・ソ間の全面核戦争が始まってしまう。

 新聞記者、澱口襄は、東京でガールフレンドの香島珠子と遊んでいたところ、核戦争勃発を知る。一方、政府は南極へ脱出しようとするが、ヘリコプターに閣僚やその家族、どさくさに紛れて逃げようとする警官などが詰め掛け、乱闘の末に墜落。

 自衛隊によって戒厳令が敷かれ、核兵器放射能の恐怖からパニックになった街を通り抜け、機械に詳しい少年ツヨシを助けつつ、珠子と共に新聞社に向かった澱口は、知り合いの新聞記者、野依渉から核戦争の状況を教えられ、ツヨシ・珠子と共に新聞社屋上のヘリを使って大阪にいる婚約者の元へ行こうとする。

感想

 一人一人に焦点を当てて、その死を描いた「渚にて」、第三者的な視点でパニックに陥った群衆を描いた「神と野獣の日」に対して、本作はパニックに陥る人々の様子を思いっきり誇張して描くことでブラックな笑いに変えている。

 そして、グロい。「霊長類 南へ」は発表済みの短編を改変して作品中に組み込んでいるため、主人公の1人称視点の他に、「神と野獣の日」にも近い3人称視点の場面も多いのだが、細部を徹底的に誇張して描くことで、群衆を人間から、霊長類、そして、臓器と血液が詰まった袋へと変えてゆく。

 そのありさまは、まさに巨大な回虫の大群だった。汚物にまみれて蠢く、巨大な回虫の大群だった。上へ、さらに上へと積み重なり続ける人間の山の、その底ではすでに圧死した人間たちのからだが音を立てて潰れ続けていた。

 もう全体がこんな感じである。

 全編から、ブラックな笑いと同時に、人間性を失い、南を目指す霊長類となった人間いに対する冷たい悲しみを感じる。核戦争が始まった原因も、人間性を捨てて生き残ろうとしたその結末も全てがただ、「nonsence」である。 

 ところで、私は「筒井康隆コレクションⅡ 霊長類南へ」でこれを読みました。これには作者による解説がついているわけですが、その中で

終戦争、あるいは核兵器をテーマにして書かれた長編小説は、非常に多い。邦訳されているものだけで二十数篇ある。(中略)このほとんどを僕は読んでいるはずだ。

という部分があります。この筒井康隆氏の核戦争小説リスト、ぜひみてみたい、などと思いました。

 

 

 

パンジャンドラムは出てこない 核戦争小説を読もう第2回 ネヴィル・シュート「渚にて」

 

全面核戦争・人類滅亡… それは来るべき未来なのか?

核戦争小説を読もう第2回です。

第1回目は松本清張「神と野獣の日」でした。

the-level-seven.hatenablog.com

第2回目はネヴィル・シュート「渚にて」です。

先に総評を
(個人的な)好み度★★★★☆
死ぬ前に何をするか考えさせられる度★★★★★
読んでる時に頭の中で蛍の光が聞こえる度★★★★★

どんな本?

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 イギリス出身、オーストラリアに移住し、一部では珍兵器「パンジャンドラム」の開発者として知られる小説家「ネヴィル・シュート」氏による核戦争SF。

 中国・ソ連間で発生した核戦争は、北半球全体を巻き込んだ全面核戦争に発展。北半球の滅亡で戦争は終わったが、致死性の放射性降下物は徐々に南半球へやってくる。

 すでにオーストラリア北端は人間が生活できない地となり、主人公が生活するオーストラリア南端のメルボルンに放射性降下物が到達し、人類滅亡するまで残り数ヶ月。

 そんな中、アメリカ合衆国原子力潜水艦スコーピオン」は、北半球の放射線量、および、生物が全滅したはずの北半球から断続的に届くモールス信号の謎を調査するために出航する…

感想

 第1回の「神と野獣の日」が核兵器到達まで1時間ちょっとの中で起きる、混乱や暴動と不条理な死について描くある意味「パニック映画」的な作品であったのに対し、本作は、(戦争の影響はあるものの)暴動やパニック描写はあまりない。

 核戦争それ自体の描写も登場人物の回想として「中国とソ連が核戦争を開始し、エジプトや、その他小国による核攻撃とアメリカの報復が戦争の全面化を招いた。」ことが語られるのみである。

 しかし、本作全体、最初から最後まで「避けられない死」が常に意識される。主人公とその家族、親戚は赤ん坊がいたり、農場の手入れをしていたり、家庭菜園や庭造りに取り組んで、来年、再来年の話をし、そのための計画を立てているが、しかし、あと数ヶ月で死はやってくる。

 この「どうせ後数ヶ月で全滅だぜ?」的なことを言ってはいけないこの空気感。
もし、ここで「後は野となれ山となれ」とこの絶望的状況を受け入れてしまえば、一気に人間としての生や死というものは失われてしまうでしょう。

 本作は核兵器の恐怖と同時に、人間として生きること、そして死ぬことについて考えさせてくれます。

 ところで、核戦争といえば、米ソ対立または米中対立など資本主義陣営vs共産主義陣営の対決で発生するイメージですが、本作は中ソ対立から始まり、小国に拡散した核兵器が戦争を全面核戦争へとエスカレートさせてゆきます。

 中ソ対立が始まり始めた時期に書かれた作品らしいといえますね。