映画にもなりました 核戦争小説を読もう第4回 デイヴィッド・ブリン「ポストマン」

さて、今回も核戦争小説をゆっくり紹介してゆくよ。(違う)あ、でも紹介動画とか作って見たいかも。

前回は筒井康隆「霊長類 南へ」でした。

the-level-seven.hatenablog.comそのうち、各小説を2~3行ぐらいで紹介したページも作りたいですね。

どんな本?

総評

好み度★★★☆☆
プレッパー度★★★★☆

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本の詳細

 ハードSF作家、デイヴィッド・ブリンの核戦争SF小説。映画化され、早川書房SFから改訂版が発売されています。

あらすじ

 核兵器や細菌兵器で壊滅したアメリカ合衆国。人々は小さな集落を作り、どうにか生き延びていた。集落間を移動しながら演劇を見せるなどして生きている男ゴードンは盗賊に襲われ全てを失ってしまう。

 そんな彼が放棄された郵便局のジープとそこで死んだ郵便局員の男を見つけた時、彼の運命は大きく変わることになる。

 郵便局員の制服を身につけた彼は、訪れた集落の人々の勘違いなどからいつしか、「復興合衆国の郵便局員」として集落を組織し、アメリカ再建を目指すことになる…

感想

世界観はこんな感じ

 今回の核戦争は、おなじみ(?)核兵器や細菌兵器を使った最終戦争なのですが、極端に「ヒャッハー」的な世界観ではありません。核戦争後、どうにか体制を維持していたアメリカと過激な思想家ネイサン・ホルンとその影響を受けた「ホルニスト」または「サバイバリスト」と呼ばれる人々による闘争的なことがおき、最終的に政府は崩壊した、という感じです。

 アメリカには実際に「プレッパー」や「ミリシア民兵)」と呼ばれる武装した市民がいるんですよね。ミリシアは白人至上主義や極右的な思想を掲げる(こともある)武装した市民集団、プレッパーは災害などの危機に備えて過剰なまでに食料や武器や武器を備蓄しています。「プレッパーズ」というドキュメンタリーもあるので見てみると面白いかも。まあ、災害に備えているだけなら無害なんですが、作中ではその手の無害なサバイバリストは、ホルニストなどとの闘争に敗れて死んでおります。

で、感想です。

 ポストマンの舞台はアメリカ西部(日本人的には東と西がややこしい)オレゴン州ウィラメット渓谷のあたりです。この辺りはアメリカの地理が頭に入っていないとわかりずらいかも。

 戦争の経過についても、物語が進むにつれて少しずつ明かされる方式のため人工知能や有人火星着陸、改造人間など、「あ、意外と技術進んでるのね」というのは後からわかります。

 で、主人公ゴードンは集落を移動しながら(戦前に学んだ)演劇なんかをやって食事や寝るところをもらっているわけです。マクベスやなんかを演じていた彼が、勘違いから遠いアメリカ東部で復興しつつある復興合衆国の郵便局員を演じるようになり、それが最終的に、ささやかながらも地域の統一へと繋がってゆきます。

 彼の演劇は戦前の回想や現実を忘れるために行われていますが、もしかしたら、彼を郵便局員と勘違いした人々も、本当は彼が本物でないことを知っていたかもしれません。

 そして、演劇を通して希望を与える役者であった彼が、その希望をつなぐ者になってゆく過程がなかなか面白い。

 後半は改造人間や(核戦争後にはめずらしい)フェミニストの女性と、彼女の「凶暴な男によって滅びた世界と、彼らを止めるために女が果たすべき義務」という思想、そして、ウィラメット渓谷偵察隊の女性による悲劇的な作戦、など盛り沢山な展開になっております。

フォルクスワーゲンのWVはWillamette ValleyのWV。ぜひ読んで見てください。