潜航指令 証言 -北朝鮮潜水艦ゲリラ事件- 著:李光洙 訳:辺真一

-問題は江陵から38度線まで80キロ近くあることだが、夜間泳いで日中は陸に上がって隠れて休養をとる、というパターンを2、3日繰り返せばいけそうな気がした。-

どんな本?

 北朝鮮の潜水艦が韓国の江陵で座礁し、武装した工作員・乗組員が韓国に上陸、約2ヶ月間、韓国国内を逃走し小説「宣戦布告」の元ネタとなった事件「江陵浸透事件」。事件に関わった工作員で唯一逮捕され、その後、転向した李光洙氏が自身の派遣から逮捕、転向までを証言したノンフィクション。

どんな内容?

 李氏は、潜水艦乗員(戦闘員・予備案内人)として作戦に参加。潜水艦が座礁し、18日未明に上陸。翌日の19日、逃走中に通報により逮捕される。
 逃走中、そして逮捕後に彼が知ることになった、高速道路を車が頻繁に行き交い、女性が車を運転し、山奥の民家に電話がある、という韓国の実像は、祖国北朝鮮で教えられてきたものとは全く別のものだった。このことに南の人民は飢えている、韓国は貧しい、と教えられてきた彼は衝撃を受ける。韓国の実情を知らなかった筆者がその実態を知って衝撃を受ける場面の連続はなかなか面白い。子供の頃から教えられ、さらに外国の情報を知ることもなく育つと、これまで見聞きしたものがどれだけ嘘にまみれていても疑うことなく信じてしまう。ジョージ・オーウェルの「1984年」にも独裁を成立させる要素の一つとして、他国の情報を入れないこと、が出てくる。教育と情報の重要性、また、北朝鮮人から見た韓国、という珍しい視点を楽しめる。