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プラハの墓地 著:ウンベルト・エーコ 訳:橋本勝雄 (海外文学セレクション)

書評:フィクション

構成

 イタリア統一、パリコミューン、ドレフュス事件、そして、ナチスによるホロコーストの根拠とされた史上最悪の偽書、「シオン賢者の議定書」これら、ヨーロッパの歴史を動かした事件の裏に、一人の文書偽造家がいたとしたら…
 「バラの名前」で知られる作家、ウンベルト・エーコによる小説。

内容

 物語は、古物商を営む老人が過去を回想した日記を書いており、それを読む、という流れで始まる。この古物商の老人、シモーネ・シモニーニこそ、文書偽造の達人、そしてヨーロッパを揺るがした様々な事件に関わった人物である。祖父の影響でユダヤ人を嫌悪するようになった彼は、祖父の死をきっかけに知り合った公証人レウバデンコの元で働くことになる。レウバデンコは公証人の仕事の傍ら、「新しい写しを作る作業」こと、文書偽造を行っていた。そんな彼の代わりに文書偽造を請け負うようになったシモニーニは、イタリア革命を目指す秘密結社「炭焼き党」(カルボナリ - Wikipedia)のかかわる陰謀に関わったことをきっかけに、各国の秘密情報部と関わりを持つようになり、歴史を動かす事件に関わってくことになる…

感想

この簡単なあらすじでもわかる通り、主人公シモニーニは、様々な人物と関わり、ヨーロッパの歴史を動かした事件に参加する。登場人物が次々と多人数登場し、その上に、「秘密結社に属してるけど、情報部の協力者」みたいな人物まで登場する。登場人物一覧を作るか、誰かわからない人が出てきたら、ネットで調べるようにするといいかも。(なんたって、主人公以外は、ほとんど実在の人物だ)
 そして、作中にはダッラ・ピッコラ神父、と言う謎の人物が登場する。シモニーニの家と通路で繋がった部屋に住むこの神父は何者なのか。そんな人物は実在するのか、それともシモニーニが寝ている時に動き出す二重人格のような人物なのか? シモニーニはそれを確かめるべく、自分の過去について思い出しながら日記を書いていく、そんなもう一つの話が同時並行するため、最初の方は何が起こっているのか混乱するかもしれない。でも、中盤から終盤にかけて、シモニーニが情報部に協力しながら様々な秘密結社の陰謀にかかわるあたりはテンポよく、面白い。本の宣伝帯に、「ハイレベルはフーダニット小説」という文句が付いているが、的を射ている。ヨーロッパの歴史を影で動かした人物はだれなのか? というミステリー的にも読めるし、次々と陰謀を画策し、偽文書を作って、秘密結社や人を陥れ、時には自ら手を下したりもする、「ハイレベル悪の教典」と言ってもいい。
 そして、本書中に度々登場する「それらしき偽文書を作るコツ」、これはアメリカ大統領選挙でも騒がれた「偽ニュース騒動」にも通じるものがある。
 ・それなりに事実を混ぜる
 ・相手が欲している情報を混ぜる(例えば、キリスト教関係者に向けて作るなら、キリスト教を冒涜するような陰謀を画策している、というような感じ)
 どう? ほとんどの人は、「みたい事実、読みたい事実」しか見ないし、それが「予想通り」、「読めて、見えて」しまったらそれで満足して、それ以上調べようともしないでしょ? 
 「もう一つの事実」(Alternative fact)って言葉が話題になっているけれど、それらの偽文書、そして本書も「歴史のもう一つの見方」だったりするのである。