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戦争は女の顔をしていない 著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ 訳:三浦みどり 岩波現代文庫

書評:軍事・戦史

構成

第二次世界大戦ソ連では100万人を超える女性が従軍し、軍医や看護婦のみならず、狙撃手やパイロットなどとして、武器を取り、戦地へと向かった。しかし、戦後はその女性たちは世間から白い目で見られ、その戦争体験が語られることもなかった。
 そんな女性たちの声に焦点を当てた本書は、ウクライナ生まれの作家であり、ジャーナリストとして、初めてノーベル文学賞を受賞した、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの代表作である。
 群像社から出版されていたが、ノーベル賞受賞後に版権問題で品薄が続いていたが、現在では岩波現代文庫から出版されている。
文庫版で、約500ページ(解説含む)、当時、従軍した女性たちへのインタビューで構成されているため、軍事的な知識は必要ではないが、それなりに重い描写も多いため、読むには覚悟が必要かも。

内容と感想

ソ連で女性が従軍し、また、軍医や看護婦だけでなく、パイロットや兵士として活躍した、という話は、個人的に軍事マニアとして知っていた。(女性のエースパイロットや名狙撃手もいる)また、ロシアの軍事博物館を訪れた際も、第二次世界大戦中の女性兵士の活躍についての展示もあった。しかし、そのような、一部の「英雄」を除いた大多数の女性について、その「生の声」に焦点が当てられることはなかった。
 その理由として、一つには大祖国戦争(ロシアでの第二次世界大戦の名称)は当時のソビエト連邦や(もしくは)現在のロシアにとって、「偉大なる祖国が勝利した」という物語でなくてはならず、「英雄」の物語である必要があった、という国の事情がある。

ヨーロッパの半分を解放した我が軍に対する中傷だ。わが国のパルチザン、わが英雄的国民に対する中傷だ。あなたの小さな物語など必要ない。我々には大きな物語が要るんだ。勝利の物語が。 (本書 P.32)

 また、その他にも、当事者である、女性たちがその物語を語らなかった、という理由もあるようだ。それは、戦争に言った女性に対する偏見のようなものがあったからではないだろうか。

4日目の朝、母が起こすんです「あんたの妹じゃ、誰にもお嫁に貰ってくれないよ。ああんたが四年間というもの戦争に行っていた、男たちの中にいたってことをみんな知っているんだよ」って。あたしの気持ちに触れないで、他の作家と同じように、あなたもあたしの勲章のことだけ書いてよ (本書:P.35)

 女性兵士と共に戦場にいた男性からも、「彼女たちと結婚しようとは思わなかった」という言葉が、本書中に幾つかある。
 そのような理由で、語られることのなかった女性たちの物語は、出版するのも難しかったようで、ゴルバチョフによるペレストロイカが始まるようになるまで、出版を拒否されたいたそうだ。
 この本の中で、具体的にどの部隊に所属し、どの戦線で戦ったか、について描かれている部分はあまり多くない。しかし、この作者が焦点を当てたかったのは、そういった、「英雄の歴史」ではない。また、そういった歴史は、その時の都合によって変更される場合もある。男たちがそれに隠れ、その事実や、思想、対立に対して興味を持つ「歴史」ではなく、その当時の生の物語に焦点を当てよう、と作者が決めた時に、作者が焦点を当てたのが「女性」の物語であったのだ。
 狙撃兵としての初めての戦場で、ドイツ兵を射殺することにためらいを感じ、また、前線に行く時に鞄いっぱいにチョコレートを詰める、その一方で、全身火傷をして兵士を戦車から引きずり出すこともする、本書に書かれているのは、英雄の、または、勇敢な兵士の言葉ではないかもしれない、しかし、実際に戦争を体験したものの、生の声、であり、時間とともに消えていってしまうそういった声こそが、本当に貴重なもの、なのかもしれない。