【感想・ネタバレ】移動都市/モータルエンジン
-暗い荒れ模様の春の午後。ロンドンは小さな岩塩採掘都市を追いかけて、旧北海の日上がった海底を疾走していた。-
どんな映画?
60分戦争で世界が荒廃したの後の地球、キャタピラや車輪の上に乗った都市が他の都市を喰う「都市ダーウィニズムの時代」、巨大移動都市ロンドンに一人の暗殺者が忍び込む…
フィリップリーブ原作のSFファンタジー小説「移動都市」を実写映画化。ロードオブザリングなどで有名なピータージャクソンが脚本・製作、とのことです。ロードオブザリングやファンタジー系作品で名前をよく聞くピータージャクソン製作、とのことで大規模公開されるのかと思いきや、意外と公開館数が少なくてびっくり。
登場人物は?
トム・ナッツワッシー:ナッツワッシー君はロンドン史学ギルドの下級見習い。飛行船を操縦できます。演じるのはロバート・シーハン。(私と同じ左利きです。)原作では美少女とアウトランドを冒険する妄想をします。親近感が持てますね!
ヘスター・ショウ:顔に傷のある少女。シュライクに育てられ、ヴァレンタイン暗殺を目的にロンドンに忍び込みます。演じるヘラ・ヒルマーは日本公開作がなくあまり情報がありません。
アナ・ファン:赤い飛行船ジェニ・ハニヴァーを操ります。サングラスや服装がマトリックスみたい。
シュライク:60分戦争後の戦乱期に死体から復活した兵士「ストーカー」の最後の生き残り。ターミネーター的なやつです。ヘスターの育て親でありながら、彼女を殺すために追いかけてきます。演じるのは映画「アバター」の大佐役で有名になったスティーブンラング
ヴァレンタイン:元スカヴェンジャーで現在はロンドン史学ギルド長に出世します。
キャサリン:ヴァレンタインの娘。ロンドンの上流階級の美少女です。可愛い。可愛いだけでなく行動力もあります。
ヴェビス・ポッド:下層階級のエンジニア。ダストシュートに落ちるところに遭遇したことからキャサリンに接近することに…
ストーリー解説
都市は動く! いいね?
Universalの地球が60分戦争仕様になっています。と同時に60分戦争で地球は荒廃、古代人が移動する都市を作ると語られます。
ハリーポッターが魔法を使えるように、都市は動く! いいね?
都市が動く意味なくね? とかは言わないことです。原作でも戦争後は地震や火山、津波などが多発して都市ごと移動する意味がそれなりにあったけど、もう動く意味なんてない、とあっさり言われています。
ロンドン襲来とともにバラけて逃げようとする都市たち。ここ、屋台まで折りたたみ式になって収納されるのが笑えます。んで、結局、ヘスターの乗る都市はロンドンに捕まるわけです。
大英博物館の下級見習いトムは美人を案内してウッキウキになっています。ここで、60分戦争で使われた超兵器「メデューサ」について紹介されます。ロンドンが都市を捕食したため、それを解体する「ガット」に行くよう命令されるトム。そこで彼は憧れのヴァレンタインに遭遇。彼の暗殺を試みるヘスターを捕まえようとします。その時、ヘスターのヴェールがずれて、顔の傷があらわに… 彼女はダストシュートに落下、一方のトムは追いついたヴァレンタインに突き落とされてしまいます。
ネタバレと批評
設定や映像は良し。ただ、原作の魅力が少なくなりすぎている。
移動する都市、という英国面とんでも設定が魅力的です。様々な形の移動する都市のビジュアルやロンドンの細部、キャタピラ跡の残るアウトランド、飛行船や「盾の壁」要塞の映像はとても良いですね。ただし、原作からの改変要素がちょっと問題です。
問題点1:善・悪をはっきり分けてのストーリー整理
原作はロンドンが「悪」で反移動都市側が「善」という対立にはなっていません。ロンドンですら、さらに巨大な移動都市パンツァー・シュタット・バイロイトの前では食われる存在です。燃料切れで停止した巨大都市が他の弱小都市群に襲われるなど、移動する都市も「動かないと死ぬ」的状況にあることがわかります。
登場人物に関しても、ヘスターは冷酷で自己中心的な暗殺者かつ頭の回転が早い少女、ヴァレンタインは超兵器をロンドンに持ち込んだ一方、娘思いで、彼女の言葉をから自分の行いを後悔していたりします。トムも憧れのヴァレンタイン像とヘスターの語る冷酷なヴァレンタイン像の間で揺れ動き、反移動都市を守るため、とは言え、故郷であるロンドン爆撃作戦には強烈に反対しています。(第一彼は反移動都市同盟に対して野蛮な考え、という意見を持っています。)原作はロンドンと超兵器メデューサを中心とした群像劇的で、映画にまとめるにはストーリーの整理が必要ですが、その時に原作の人間が持つ2面性、をも整理してしまったのはとても残念です。
問題点2:へスターが普通に可愛い
これ、映画の予告編公開時点で色々と話題になっていました。画像はインターネットのキャンペーンサイトからです。原作版ではかなりひどい傷である描写がなされています。ヘスターのスカーフが外れて、初めて顔全体が見える場面。「ああ、なんとひどい傷!」と観客に感じさせないといけない場面なのに、そうなってません。中盤、奴隷市場で売られそうになる場面がありますが、ヘスターの前に老婆が売られ、続いてへスター。「見た目は悪いのでお安く…」みたいに紹介されますが、さっきの老婆に比べれば全然美人だよ!
問題点3:アクションシーンを増やしたために流れに問題ができた
まず、最初のガット内部の追いかけシーン。なんでトムがドリルやチェーンソーの間をくぐり抜けて、命がけでヘスターを追いかけるのか、がわかりません。
原作でもガット内を逃げていますが、あくまでも通路の上を逃げています。だからこそ、トムの冒険ができる(多分、ヴァレンタインの娘にモテるきっかけになる)! 美少女暗殺者を追いかけてる! という本当にしょうもないきっかけの追跡劇が成立するわけです。
続いて、先ほども紹介した奴隷市場のシーン。映画ではヘスターを高額で買い取ろうとするアナファン、懸賞金目当ての奴隷商人とアナのアクションがあって、その後二人が逃げるという流れです。孤児だから助けた、とのことですが、なんでヘスターに目をつけたの? ってなりません?
原作では奴隷市場で売られる、とわかった二人が都市の壁を蹴破って逃げ出し、逃げる途中でアナに出会う、という流れです。こっちの方が自然だし、この場面はヘスターちゃんの貴重なデレシーンなんです。(大声)
全体のアクションシーンは増えていますが、そのせいで流れに無理がある、というかなんというか…
問題点4:メデューサ描写と結末
まず、超兵器メデューサの威力が超兵器に見えません、60分戦争時にメデューサが都市を一撃で破壊する映像を冒頭で見せられるので尚更です。あと、原作では「なんかすごい古代兵器を復活したらしい」ぐらいの情報なんですが、映画ではメデューサについて詳しいトムがいます。空中艦隊はもっと分散しろ!
原作の通り、パンツァー・シュタット・バイロイトを出して、ロンドンが生き延びるための必死の逆転兵器としての側面があることを示しながら一撃で全てを破壊する超兵器描写をすればいいのです。
続いて結末のところ。完璧に「ファントム・メナス」です。エンジンみたいに大事なものを格納庫におくな! 実はこのエンジン描写は原作準拠ですが、原作は違う方法でロンドンが停止するので原作ではあまり気になりません。
ロンドン停止後の反移動都市側がとる行動も「そうなるか?」感が多いです。
敵とは言え、人を殺してしまった。という罪悪感や故郷を破壊しなければならない苦悩などトムの共感できる部分が大きく減っています。
そのほかにも、元が群像劇的であったところを微妙に入れるせいで、シュライクとヘスターの複雑な関係やキャサリンとヴェビスの活躍などが描写し切れていません。
まとめると…
動く都市を見るなら素晴らしいです。もう一度みる? と言われれば見るかも。
原作を読め!