社会派推理小説作家の異色作 核戦争小説を読もう第1回 松本清張「神と野獣の日」

 世紀末(ヒャッハー)や人類滅亡、ポストアポカリプスと絡めて語られる「核戦争」を扱った小説を読みます。様々な視点、方法で描かれているため、短編小説まではカバーしきれず、「核戦争の危機!」までは扱わないつもり。
(核戦争が起きて、かつ、それがメインとなっている小説だけね。)

第1回目の今回は松本清張「神と野獣の日」
総評
好み度★★★☆☆
不条理度★★★★★

どんな本?

 社会派推理小説で有名な小説家、松本清張氏が核戦争について描くSF作品。太平洋自由条約機構に属するZ国から10メガトンの水爆を搭載したミサイルが5発、東京に向けて誤射されたという連絡が入る。

全てのミサイルを迎撃できる可能性は少なく、東京の壊滅は避けられなくなった。核ミサイル命中まで43分、突然の死に直面した人は残りわずかな時間何をして過ごすのか…

感想(ネタバレもありますのでご注意を)

 自衛隊は防衛軍となり、太平洋自由条約機構という軍事同盟が存在するなど、微妙に状況は異なるが基本的に現代の日本を舞台にしていると言って良い。

 そして本作は全面核戦争ではなく偶発的な危機を扱った作品である。だからこそ、関東圏に住む人だけが殺されることになり、その不条理感が際立っている。

 一応の主人公的な人物としてG工業に勤務する戸上佐知子は登場するものの、政府やメディア、逃げる人々の行動を記録するような視点で描いている。

 暴行や暴動が起こり、大混乱に陥る東京の描写と、大阪に脱出した首相に「予想以上に平静を保って、整然と脱出しております」という報告の差がまたひどい。

 最後、着弾したミサイルが不発となり、死の狂気に駆られた人々が自らの行いをふと振り返ったその時に… というオチは強烈で、もはや喜劇である。

 この本は、筒井康隆の「霊長類南へ」の作中で紹介されていて知りました。どちらも、逃げる人を神の視点で描く場面がありますが、どちらかといえば淡々と描写が続く本作と、とにかく人が死ぬ密度と細かい描写が多く、死の描写をオーバーに数を増やしまくることによるブラックな笑いを特徴にする「霊長類南へ」の対比は、各作者の伝え方やテーマの差を垣間見れておもしろい。