右翼と左翼 著:浅羽通明 (幻冬舎新書)

構成

 政治的な対立軸を表す表現の「右翼」と「左翼」という言葉。政治を語る上で、当たり前のように語られている言葉ですが、少し深く考えてみると、よくわからなくなる対立概念ではないでしょうか? 日本の共産党など左翼は平和主義を訴えていますが、なら軍拡を行う中国や北朝鮮は「右傾化」していることになるのでしょうか。そして、そもそも、なぜ「右」と「左」という言葉で政治的対立を表しているのでしょうか。
 本書は、知っているようで知らない「右翼」と「左翼」の起源からその歴史、現代日本の「右翼」と「左翼」までを解説した新書です。
プロローグ 本書の読み方
第1章 「右」と「左」とは何か ー辞書を引いてみる
第2章 フランス革命に始まる ー「右」と「左」の発生
第3章 「自由」か? 「平等」か? ー19世紀西洋史の「右」と「左」
第4章 「ナショナル」か? 「インターナショナル」か? ー19〜20世紀の「右」と「左」
第5章    戦前日本の「右」と「左」ー「国権と民権」・「顕教密教
第6章 戦後日本の「右」と「左」ー憲法9条と安保体制
第7章 現代日本の「右」と「左」ー理念の大空位時代
エピローグ 「右ー左」終焉の後に来るもの

ページ数は253ページ、大きさは新書版。
 目次を見ればわかるように、右翼と左翼の歴史や起源はもう知ってるから、日本の左右対立について知りたい、と思う人は後半から読んでも理解出来るようになっている。
 最初から読んでいくと、一般的な認識から、語源となった出来事、歴史の中で右翼左翼の理念がどう変化して行ったのか、そして明治以降の日本ではどのような対立、変化があったのかがわかるようになっている。

内容と感想

 初めて「右翼」「左翼」と言う言葉に触れるようになるのは中学の後半か高校じゃないかと思う。公民の授業とか受けたでしょ? 私に公民を教えた先生はいわば「カリスマ教師」のような人で、右翼と左翼の語源についても触れて教えた人だった。
 だけれども、「右翼」と「左翼」をめぐる疑問は尽きない。例えば、「右翼」は「保守派」、「左翼」は「革新派」と呼ばれたりするけれど、ならば、旧ソ連では、「右翼」が共産党になるのかな? とか。
 もともと、「右翼」=保守派、資本主義的、ナショナリズム的、「左翼」=革新派、共産主義的、のイメージがあるけれども、現代日本において、憲法改正、集団的自衛権を含む「現状を変えよう」としているのが、本来、「保守」や「右翼」として語られてきた自民党で、それに反対しているのが本来、「革新派」「左翼」と言われてきた共産党など、という逆転現象も起きている。
 そんな「右翼」と「左翼」をめぐるモヤモヤも大体、この本を読めば解消されるだろう、そんな内容だった。
 この本が発行されたのは、2006年で、自民党小泉内閣の後に安倍内閣が誕生、次の選挙で政権交代が起きる前である。そのため、日本では「右翼」=与党、「左翼」=野党、のイメージがある、と書かれていたり(これはあんまり変わんなかったけど)、在特会やシールズ(政治団体の方)といった、最新の政治運動や市民団体についての記述がないなど、情報が少し古くなっている部分はある。ただ、この思想を突き詰めた先に「ユートピア」がある、という感覚がなくなり、また、豊かな日本社会で「攻撃するべき敵」を失った「左翼」と、そんな「左翼」という相手を失った「右翼」が両方とも限界に達してしまっている、という現状は、本書が書かれた当時から、あまり変化していないように思う。今の安倍政権の支持理由としてあげられる「他に適当な人がいない」が最多となるような状況もそれを表しているように思う。
 
 
 

【行ってみた】驚きの明治工芸 東京芸術大学大学博物館

どんな展示?

 江戸幕府の統治により、安定した江戸時代の日本ではいわゆる「職人の技」が継承、洗練されていたが、江戸時代の終わり、そして明治時代になると、職人は大名や幕府の後ろ盾を失ってしまう。
 しかし、江戸時代の終わりや明治時代になると日本の職人技によってつくられた工芸品は、重要な対外輸出品となったこと、また明治政府が職人を支援したことから、職人たちは、自らの技を駆使し、緻密で写実的な工芸品を制作するようになった。
 そして、もう一つ驚くべきことはそのような工芸品が一人の台湾人によって収集された、ということだ。
 今回の展示は、写実的、緻密な表現が特徴の明治工芸のコレクション、「宋培安コレクション」から、100点以上の作品が一挙展示される展示会だ。

アクセス、入場料、混雑具合は?

上野駅から少し歩いたところにある、東京芸術大学大学博物館で展示が行われています。
入場料は一般 1300円、高校生・大学生 800円です。
平日の昼間だったので、年配の方が多い印象で、特に混雑しているわけではなく、ゆっくりと作品を見ることができます。
写真撮影可(一部を除く)

内容と感想

 私は、もともと、超絶技巧系の作品や、細密、写実系の作品が大好きな人間で、千葉県のホキ美術館の超細密描写とか、美術手帖の超絶技巧特集は大好きです。(もともと、模型とかも好きだしね)
 で、そんな中で、江戸時代や明治時代の工芸作品には、とんでもないものがある、というので、見に行ってきたわけです。
 今回の展示の目玉、といえば、全長3mの自在龍を中心とした、「自在シリーズ」ともいうべき置物の数々でしょう。
 この「自在シリーズ」(私が命名しました…)は、もともと鎧を作っていた職人が、鎧の関節部分を可動させる技術や金属加工技術をもとにして、制作した、というような作品です。(て、美術手帖に書いてあった気がする)具体的には、金属の板を加工し、繋げることで、蛇やエビ、魚、鳥や昆虫などの動物を形態を写実的に表現するだけでなく、その動きまでも! 実物のように再現してしまった、と言う作品です。自在蛇、トイう蛇の置物は、実際に動かす様子が動画として、放映されていましたが、本物のように、とぐろを巻かせることもでき、舌まで動かせる徹底ぶり。
 蛇の鱗一周分が一つの部品になっており、鎖のようにそれを次々につなげていくことで蛇の動きを再現しているそうです。さらに、昆虫の足は蝶番のような構造で動かせるとか (昆虫の大きさ、ほぼ実物大なんですけど…)
 そのほかにも、どう見ても竹製の煙管筒なのに、実は紙でできていたり、タバコに箱ぐらいのサイズに、胡蝶の夢、の彫刻がしてあったりと、江戸時代から、明治時代あたりの職人技の集大成を見ることができます。
 確か、ペリーだったかその界隈の人物が、江戸時代の日本を見て、「蒸気機関なしに到達しうる最高の文化と技術力」と評したそうですが、そう言いたくなるのも納得の展示でした。

 

 

ウォー・デイ 著:W・ストリーパー、J・W・クネトカ 新潮文庫

構成

 1988年10月27日に、ソ連がアメリカを核攻撃し、アメリカが反撃、米ソ核戦争が発生する。しかし、その戦争は、ヨーロッパで結ばれていた秘密協定の影響もあり、全面核戦争にはならずに終結する。
 1988年10月27日、通称「戦争の日(ウォーデイ)」にニューヨークで核攻撃を受けた作家、W・ストリーパーは、被曝により余命はわずか、また、「治療不可能」と判断されることとなった。
 そんな彼は、友人のJ・W・クネトカと共に、ウォーデイ後のアメリカを旅して、人々がウォーデイをどのように過ごし、また、その後、どのようにして生きてきたかを明らかにしようとする、という、フェイクドキュメンタリー形式の小説。
 ページ数は、570ページ、文庫版サイズ。若干、入手困難ですが、古本が売られています。

内容と感想

 全面核戦争とはならず、ウォーデイ(戦争の日)と呼ばれる、1日ですべてが終わった米ソ核戦争後のアメリカを、二人の作家が旅しながら、様々な人々にインタビューする、という、「ワールド・ウォー・Z」の核戦争版のようなあらすじ。(出版はウォーデイが先です、念のため)
 戦争当時の政府高官、祖国が壊滅したことを知らずに潜行している潜水艦を狩る潜水艦掃討部隊の艦長、科学者、自身の体験などを交えながら、リアルな核戦争後のアメリカを描いており、街頭調査の結果や、地図、データが記載されており、ドキュメンタリータッチの小説としてのリアルさ、細部へのこだわりは一級品の傑作。
 戦争により衰退したアメリカに変わり、イギリスや日本がアメリカに変わる新たな超大国となろうとしており、日本製のコンピュータや自動車、リニアモーターカー計画も登場、核の脅威を知っているはずの日本が、ロスアラモスの核施設を大阪に移転しようとしている描写も。
 核戦争後のアメリカは、中央政府が崩壊し、核戦争により被害を受けた地域は、立ち入りが制限される、電磁パルス(EMP)により、電子機器のほぼ全てが破壊されたため、工場やインフラ、経済の複雑なシステムは全て崩壊してしまい、通貨は金本位の金貨に変わられている。
 そして、地方政府も、核攻撃の被害が少ないカリフォルニアが実質的に独立国のようになり、他の地方からの移民を制限するなど、州の集まりであるアメリカらしい一面もある。
 核戦争小説というと、核戦争下でのサバイバルや、全面核戦争後の文明崩壊系を生き抜く、という内容が多い中、たった1日の戦争で崩壊したアメリカのその後をドキュメンタリタッチで描いた作品は少ないのではないだろうか。
 文明崩壊、というほどでもないし、無法者と正義に分かれて争っているわけではないけれど、だからこそ、現実味がある。
 

 

【行ってみた】建築倉庫 建築模型ミュージアム

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どんな展示?

 建築家が設計の前に製作する建築模型。
設計事務所ごと、目的ごとに、製作方法や材料も違っているようです。この建築倉庫は、1/100建築模型用添景セットで有名な寺田模型の本社ビルに開設された日本発の建築模型の保管を行うミュージアムです。

アクセスは?

東京モノレール天王洲アイル駅 徒歩5分
東京高速臨海鉄道りんかい線 天王洲アイル駅B出口 徒歩4分
JR品川駅港南口より徒歩15分
のところにあります。
黒いビルの正面に立って左側の壁のDエントランスから中に入り、正面の木の扉を押すと、受付になっています。

内容と感想

 展示場は、まさに倉庫といった感じの内装で、天井の高い一部屋に棚が置いてあり、そこに建築模型が並んでいます。また、棚の上の段や、一番下の段には、建築模型が入っていたと思われる箱があるなど、「倉庫感」満載です。
 ちょうど、9月初めの午後に訪れたのですが、意外と人がいました。館内は撮影可となっており、建築系と思われる大学生の人がいて、模型の写真を撮影していたりしました。
 また、QRコードを読み取ることで、その建築家の略歴や、その他の作品(建築物)を見ることもできます。
 実際に建築家が検討に使用した模型や、コンペ用に製作した作品の展示が中心で、例えば、落水荘のように、有名建築の建築模型のみを展示用に製作し、展示している、というのではありません。太宰府にある、スターバックスのように、実際に建築され、一般的に利用されている建物や、提案のみで建築されなかった建物の模型もあります。
 建築模型にも様々な種類があり、一般的にイメージされる建築模型(白い板でできていて、人の人形が立っているようなやつ)の他にも、建築家がコンセプトを考える時に作る、スタディ模型やコンセプト、検討模型などと呼ばれる、発泡スチロールの箱のようなもの、建物と周りの景観、都市計画などに使われる景観模型、など、一言で建築模型、と言っても種類は様々、建物の構造をわかりやすくするための模型など、通常、あまり目にすることのないものもありました。
 最初に大雑把な模型で建物の形を考え、さらに詳細な模型を製作しながら、建物のデザインを行っていく、という建築家の思考プロセスがわかるような展示でした。

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 材料も、スチレンボードや段ボール、板、プラ板など様々、建築家ごとのこだわりでもあるんでしょうか?
 中でも、一番見ごたえがあったのが、プレゼン用に使われると思われる模型で、縮尺も大きめで内装や照明まで作り込んでいるなど、ドールハウス好きにもたまらない? と思われるものでした。
 建築やデザイン志望の人なら見に行って損はないでしょうし、ミニチュア好きや、模型好きにも満足がいく展示になっていると思います。

公式サイトはこちら

archi-depot.com

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the-level-seven.hatenablog.com

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面白くて眠れなくなる植物学 著:稲垣栄洋

構成

 生物学の中の一分野である、植物学。無味乾燥で面白くないイメージのある植物学ですが、実際はとても面白いのです。そんな、「面白くて眠れなくなる」植物学の知識集。
 ページ数は、約200ページ。難易度は、高校で生物を選択した人なら、「知ってる」となる話が多く、数式や難しいグラフ、理論などはあまり出てこないので、理系に苦手意識がある人にもオススメできます。

内容と感想

 空気圧の関係で、どんなに強力なポンプを使っても、10m以上水を持ち上げることはできない、しかし、10mを超える木は普通に生えている。木はその先端までどのようにして水を供給しているのでしょうか、また、木は何メートルまで水を持ち上げることができるのでしょうか。
 例えば、この話のように、本書は、様々な植物の不思議、とそれがどのような原理に基づいているのかについて書いてある本です。
 本書で扱われている植物学は、高校生物でその一部を学ぶのですが、高校レベルの生物は、どうしても「覚える科目」というイメージが強いと思います。私は、高校で生物を選択した理系の一人ですが、周りに、「計算が苦手な人」や、「文系科目が得意な人」が多かったイメージが(笑)
 ですが、実際はその「覚える事」の背景には理論があって、「ただ覚える」人には難しい科目かもしれないけれど、「理解して、記憶する」人にとってはとても楽しい科目だったりするのです。(実際の試験では、理解して、記憶した知識をもとに、グラフや表から未知の現象について考察する問題があったりするのです)
 難易度としては高校生物レベルで、高校で生物を選択した人には、これ知ってる、となる内容もあるのではないでしょうか、しかし、高校で生物を選択した人は 少ないと思うので、「ほお」と思う人の割合は高いと思います、また、現在、高校で生物を勉強中の人には、授業で習ったことの背景にある原理がわかって、理 解の助けになると思います。
 生物学を勉強中の人、植物に興味のある人は読んで損はないでしょう。
 あと、タマネギを切った時に涙が出にくくするには、温めても、冷やしても、どちらでも効果はあります。
 
 

闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏世界の内幕 著:ジェイミー・バートレット 訳:星水祐

構成

google や yahoo, facebook, twitter, youtube,amazon etc... 皆が当たり前のように使っているインターネットの世界、そこは自由で、匿名性があり、なりたいものになれ、自分のしたいことができる、見つけられる世界だ。
 しかし、その世界の裏側には、表にはでてこない「闇(ダーク)ネット」が存在する。
 ネット荒らしや、身バレ、極右や極左の政治運動、ポルノ、さらに、google やyahoo ではアクセスできないネット空間には「暗殺市場」という名前のウェブサイトまである。
 これまで、ほとんど研究されてこなかった、インターネットの裏側「闇ネット(ダーク)ネット」に光を当て、研究を行った研究者による、「闇(ダーク)ネット」の体験記。
 大きさは、通常のハードカバーサイズ、分量は約450ページ。
 翻訳は、英語圏のネットスラングや言葉遣いをそれらしく翻訳しようとして、苦労した形跡がある。結局、掲示板の内容は、2ch風の翻訳になっていて、(笑)とか、オワタとかが出てくるので、わからない人は調べるように。あと、ビットコインとは何か、インターネットの歴史や、英語圏の顔文字の見方を知っておくとなお良いかもです。;-)
 目次
   はじめに
 序章 自由か死か
 第1章 荒らしの素顔を暴く
 第2章 一匹狼
 第3章 「ゴールド峡谷」へ
 第4章 3クリック
 第5章 オン・ザ・ロード
 第6章 ライト! ウェブカメラ! アクション!
 第7章 ウェルテル効果
 終章 ゾルタン対ゼルザン

内容と感想

 インターネットで検索し、日常的に使われている領域は、ほんのわずかに過ぎない、とか、深層ウェブのサイトを訪れたら、PCをハッキングされた、ウェブカメラ越しにこちらを見られていた、とか、「闇ウェブ」に関して、都市伝説的に語られることは多いでしょう。
 本書では「闇ウェブ」に対して、それよりも少しだけ広く取り扱っているようで、「シルクロード」のような、違法薬物の取引サイトから、極右や極左、掲示板の荒らし、自傷マニアの掲示板、ポルノなど、インターネット上に存在する非生産的、破壊的コンテンツをまとめて「闇ウェブ」として扱っている。
 これらのウェブサイトのうち一部は、(シルクロードとか)は、通常のgoogle検索やyahoo検索では到達できず、Torと呼ばれる特殊なブラウザ(参照→Tor - Wikipedia)を利用しなければ到達できないようになっているそうだ。
 しかし、ここからが重要で、IPアドレスを偽装し、日本ではサイバー犯罪者御用達のようなTorブラウザーだが、その反面、内部告発者やインターネットによる検閲を避けたい人にとっては、救世主、とも言える存在であるのだ。暗号化技術も同様だしLiveLeakのようなサイトは、政府が隠そうとしている映像や画像を明らかにする一方、グロ映像サイト、として一部に人気でもある。
 自殺志願者が集う掲示板で本当に死ぬ人もいれば、同じ境遇の人を見つける人もいる。
 つまり、インターネットは、善か悪かといった議論に意味はない。その差は紙一重であって、使い方次第ではどうにもなってしまうものなのだ。
 そして、極右団体がネットを利用して、大きな支持を集める一方、同じ思想や自分に都合の良い情報に接し続けることにより、思想の過激化が一層進んで行く集団分極化、この現象は、日本でも起こっているに違いない。
 インターネットの表層の、さらに日本語化されているところなど、ごくわずかでしかないわけで、皆さん、少し英語を使ってgoogle検索するだけで、全く違った世界が開けておりますぞ。

 

【行ってみた】ルーヴル美術館特別展 「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」

 先日、東京、六本木の森アーツセンターギャラリーにて開催されていた、ルーブル美術館特別展「ルーブルNo.9 ~漫画、9番目の芸術という展覧会に行ってきました。


混み具合は?

 実際の混雑具合は、そうでもない。5分待ち、とのことだったが、わりとスムーズに入れました。とても混んでいるように見えたけれど、同時に「ジブリ展」と「宇宙展」の二つが開催されていたからのようだ。
 ちょうど、12時頃から入場したけれど、館内も、「ある程度は人がいる」ぐらいの混み具合。人がいっぱいいて困った、みたいなことはなかった。

どんな内容?

 フランスのルーブル美術館が、「ルーブルBDプロジェクト」として、ルーブル美術館を題材にした漫画の制作を、有名な漫画家に依頼する。
 テーマは「ルーブル美術館を題材にすること」、フランスの漫画家だけでなく、日本の荒木飛呂彦氏など、合計16名がルーブル美術館を題材とした漫画を制作する。
 この展覧会は、そうして制作された漫画を元にして、「漫画」という視点でルーブル美術館を見る、という試みである。
 展示内容は、実際に作中に登場しているルーブル美術館の見どころ、例えば、赤の間や、ガラスのピラミッド、ミケ像などを紹介する第1章、ルーブル美術館の裏の顔、に当たる、倉庫や作品にまつわるエピソードなどに重点を当てた第2章、時代を超えるルーブルの魅力を漫画家たちの想像力で描く第3章、の合計3個のゾーンに分かれている。
 漫画を通して、ルーブル美術館の魅力を再発見する展示であり、実際に所蔵されている油絵や彫刻が来日している、という展示ではないのでご注意を。

感想

 フランスには、「芸術」として、これまで8個の分野がある、とされていた。
それは、「建築」「彫刻」「絵画」「音楽」「文学」「映画」「演劇」「舞踏」の8個であるそうだ。
 そして、9番目の芸術、として「漫画」というものが新たに加えられようとしているそうだ。
 「漫画」と言っても、より正確に言えば、「バンド・デシネ (BD)」と呼ばれる漫画であり、日本発祥の「Manga」「Comic」や、いわゆる「アメコミ」とは少し毛色の違うもののことを指している。
 その特徴は、芸術性が高いこと、にある。日本の漫画は、(特に、雑誌に連載されているものは)基本的には白黒、各コマ一つ一つの書き込み、よりも、一冊のストーリーを楽しませることを目的としたものが多い。また、雑誌連載の作品は、制作期間が短く、アシスタントを使う、など、エンターテイメント、としての側面が強いものが多い。
 一方、フランス式の漫画「バンド・デシネ」(以下BD)は、基本的にフルカラーで、一コマ一コマ、絵としても楽しめるように書かれているほか、紙質も高級紙に印刷されていて、本も大型、制作に時間がかかり、一年で一冊のみの刊行になることも多い。
 有名な物としては、「タンタンの冒険」シリーズのようなものを想定してくれればいい。(ル・グラン・デュークとかも)
 まあ、漫画の表現としては、どちらも一長一短あって、物語のスピード感、スクリーントーンや、多彩な吹き出しを使い、ストーリーのスピード感などを重視するエンターテイメント、として漫画を捉えているか、一コマ一コマを細かく書き込み、「芸術」という側面に重点を置いているか、という違いがあるわけです。
 で、そんなBDが展示されている本展、あえて残念な点を挙げるとすれば、漫画を全て読めないところ。スペース的に無理があるのは理解できるけれど、せっかくなら制作された作品の一部だけでなく、全て読みたかった。(できれば座って)
 あと、一部作品には、セリフの翻訳はあるけど、そのページの絵がない、というのがあって、ちと混乱しましたな。
 フランスの漫画、ルーブル美術館について知るにはいい展示だっただけに、全部読みたい欲、もしくは実際に出版された形式で読みたい欲が出る展示内容でありました。
 2016年9月25日まで、六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されています。
(HPはこちら:ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~ |Manga-9Art)